ロマン・ポランスキーの吸血鬼《ゴシック・コメディホラーの名作》
「乙女にスイートに愛を告白する百の方法」
公開年:1969
監督:ロマン・ポランスキー
出演:ジャック・マクゴウラン、ロマン・ポランスキー、シャロン・テート
上映時間:108分
天才学者のアブロンシウスは教え子のアルフレッドと、「聖なる使命」のためにトランシルバニアに訪れ、宿泊した宿でニンニクがつるされているのを発見し、目的地が近いことを確信する。アルフレッドは宿の娘サラに恋心を抱くが、謎の老紳士が宿に侵入しサラを連れ去ってしまう。
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恐怖度 ★
ユニーク度 ★★★★
キャラクター ★★★
芸術性 ★★★
物語性 ★★
|サイレントコメディのような味わい
タイトルやイメージから察するにおぞましいホラー作品と思いきや、序盤は登場人物がほとんど言葉を発さず、チャップリンのようなコメディータッチのオーバーリアクションを繰り返し、しっかり笑わせてくれる作品となっています。中でもポランスキー演じるアルフレッドは口下手という設定で、喋らず顔で演技することが多いので、最初は「この人喋れないのかな?」と思ってしまいました。
|博士と伯爵の奇妙な関係
世間から変人扱いされているアプロンシウス博士は、吸血鬼を始末するという使命のためこの地を訪れますが、いざ吸血鬼のボス、クロロック伯爵に出会うと、コウモリ談義で盛り上がり「有意義な話し合いだった」と感銘を受けてしまいます。一方伯爵の方も、博士の著書を読んでいて、博士に「サインしてほしい」と言って不思議な関係を築きます。
|シャロン・テートの美しさ
後にポランスキーの妻となるシャロン・テート演じるサラとの出会いは彼女の入浴シーンで、大のお風呂好きという設定です。ドラえもんのしずかちゃんの元ネタだろうか、、(調べたら、ちょうど同時期ぐらいに連載開始していました!)。その美貌にアルフレッドは即座に恋に落ちてしまいます。
|ゴシックな舞踏会の名シーン
クライマックス付近の舞踏会のシーンは、主人公2人がダンスに混じりサラを救い出すという名シーン、博士のダンスがいい味出しています。セットや衣装も素晴らしく、その画面を見ているだけでうっとりしてしまいます。ゴシック好きはこのシーンを見るためだけにもこの映画を見るべきです。
|大人も子供も楽しめます
この後もポランスキーは様々な種類の映画を撮り続けますが、その中でも異色のサイレントコメディ風名作かと思います。小さなお子さんや、ホラーが苦手な方も見ても楽しめそうな(ちょっとお色気要素はありますが)素晴らしい作品です。
ちなみに、見出しにもなっている「乙女にスイートに愛を告白する百の方法」は、アルフレッドが持ち歩いてる本のタイトルです(笑)。
▼別のポランスキー作品の感想もあげています。
悪魔のいけにえ《恐怖と笑いにまみれたホラー映画の金字塔》
「あの野郎、血で落書きしやがったのか?」
公開年:1975
監督:トビー・フーパー
出演:マリリン・バーンズ
上映時間:83分
ニュースで墓荒らしの事件が報道される中、車椅子のフランクリンと妹のサリーは祖父の墓の無事を確かめるために、遊びも兼ねて友人達とテキサスの田舎へ向かう。しかし道中に偶然出会ったヒッチハイカーの自傷行為などの異常な行動に先行きの不安を感じる5人。それはこれから起こる恐怖の始まりに過ぎなかった。
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恐怖度 6
ユニーク度 7
キャラクター 9
芸術性 6
物語性 2
|ホラー映画の金字塔
この映画を見たことがない人でも、タイトルぐらいは聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。今回初めて見た筆者も、「あ、なんかこのシーン見たことあるかも」と感じることの連続でした。はっきりわかったのは、殺された人が足をブルブルさせる演出、日本映画の「ヒメアノ〜ル」で引用されていたのを覚えています。あれ、怖いですよね、、、
|今見ても怖い!
低予算感がビシビシ伝わる映像の荒さ、ロケーションですが、それが逆にずっと嫌な感じを醸し出していて、初めてコトが起きるシーンは、殺人にしてはあまりにもあっけなさすぎて逆に寒気がしてしまいました。下手な演出がない分、リアルを感じます。
|後半はホームコメディ?
そんなこんなでお約束通りバンバン殺されていく登場人物ですが、後半、殺人者の家族像が明らかになってからは、展開がガラリと変わります。まあ、怖いんですが、視点を変えると山田洋次の家族ドラマみたいにも見えてきて、だんだんギャーギャー叫び続けてる被害者の方が狂人に見えてきてしまいます。そしてあのおじいちゃんのくだりは、あれはコントでしょう、笑いが止まらなかった、、
|セリフなんていらない楽しいホラー
物語はあってないようなもので、終盤に至っては誰かが笑うか叫ぶかのどちらかなので、言葉の壁を超えたミラクルなホラー映画です。80分あっという間に見れてしまうので、怖いのが得意な方は、レザーフェイスに殺される前に是非見ておきましょう!
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▼近年の日本映画の中では、かなりの傑作だと思います。森田剛の演技が最高です。
▼最近のホラーで怖かった「クワイエット・プレイス」の感想
アンタッチャブル《極悪アル・カポネに、4人の仲間が立ち向かう》
「試合は最後まで戦うことだ」
公開年:2019
監督:ブライアン・デパルマ
出演:ケビン・コスナー、ショーン・コネリー、ロバート・デ・ニーロ
上映時間:119分
禁酒法時代のギャングによる犯罪が渦巻くシカゴに、財務省のエリオット・ネスが派遣された。初仕事でエリオットはウイスキーの密造を摘発しようとするが失敗に終わり新聞沙汰になる。失意の中エリオットは、禁酒法をめぐる抗争の被害者である少女の母から「カポネに復習してほしい」とたのまれ、警官のマローンをはじめとする仲間と協力し、アル・カポネを逮捕するために動き出す。
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時代のことをよく知らなくても、映画としてよくできているので十分楽しめますが、ある程度はこの映画のテーマになっている「禁酒法」についての知識もあったほうがより楽しめると思います。禁酒法については、1920年から33年までアメリカで法の下、アルコールの製造、販売、輸送が禁止された時代があったそうです。この映画は禁酒法が廃止される直前の1930年の出来事を描いています。
|見どころは、現在も語り継がれる「駅での銃撃戦」
ラスト近くの銃撃戦は映画史に残るシーンとなっており、その緊張感は現代の目で見ても群を抜くほどです。このアクションにはとある仕掛けが施されており、それは見てもらえればすぐにわかるのですが、銃撃戦にもう一つの要素が加わることとさらなる緊張感を生んでいます。そしてこのシーンのジョージ(アンディ・ガルシア)のかっこよさといったら、たまらないです。
|アル・カポネ(ロバート・デ・ニーロ)の冷酷さ
そして今回の悪役、ロバート・デ・ニーロ演じるアル・カポネという極悪非道なマフィアもこの映画の見所です。天井から地面に向かって撮影されたオープニング、顔にタオルを巻かれた男が横たわっており、一瞬死体にも見えなくないその姿、タオルを取るとカポネがヒゲを剃らせているだけだった。寝転んでいるだけのカポネから、不穏な要素がにじみ出ている秀逸なオープニングです。
|仲間を集めて、悪に立ち向かう王道活劇
なんだか小難しいようにも思えますが、基本的な流れは、エリオット(ケビン・コスナー)が、老人の警察官マローン(ショーン・コネリー)とタッグを組み、仲間を集めてアル・カポネを逮捕しよう!というものです。仲間探しの場面や、カナダでの密輸阻止のミッションなど興奮する要素が盛りだくさんです。
|実話を元にした、ブライアン・デ・パルマ監督の大傑作
後から知りましたが、実はこの映画は実録もので、実在した財務捜査官エリオット・ネスの自伝が元になっているようです。この映画でデ・パルマはブルーリボン賞を受賞し、スランプから脱出した経緯もあるそうです。それも納得の、ギャング物、アクション好きなら誰もが楽しめる一級エンターテイメント作品です。
▼ロバート・デ・ニーロ主演作の感想。こちらはまた別の狂気を感じます。
運び屋《人生は90歳を超えてから。家族とは、生きる意味とは》
「俺の人生は最高さ」
公開年:2019
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー
上映時間:116分
園芸家のアール・ストーンは家族を大事にせず仕事に生きてきた男。この日も品評会に出席するために、娘の結婚式を欠席し娘から絶縁される。その12年後、農場を失い孤独な生活を送るアールは孫娘の結婚直前に、車で移動するだけで大金が手にはいる謎の仕事を紹介され、家族の信頼を取り戻すためにその仕事を始める。
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|老人パワーに若者が圧倒される
老人が若者に脅されながら法に背く仕事に手を染める話かと思いきや、90歳のアールの精神力や体力(というか性欲)に若者がただ驚くといった映画でした。
|90歳アール・ストーンの楽しい人生
運んでいるものが麻薬と知ってからも、まずい!と言いつつ、車で大音量で音楽を聞いて歌いまくり、道中気ままに休息を取り美味しいものを食べ、ホテルでは二人の女性に囲まれ夜を過ごすアール。その仕事っぷりに、若手マフィアのハンドラーは「真面目にやれ!」と彼を一喝しますが、逆に「おいおい、お前も人生を楽しめよ」と逆に言い返されるのでした。
そんな彼の精神力に若者たちは「すげえじゃねえか爺さん」と一目置くようになり、マフィアのボスでさえ「アールはすごい。心のままに動いているから、誰も予想がつかない。すごい運び屋だ」と絶賛するのでした。
合間に麻薬捜査官のベイツの話も差し込まれていくのですが、アールのお楽しみを見ているもんだから、真面目にやってるベイツはなんか楽しくなさそうだな、、と思ってしまうのが正直なところでした。
|王道のストーリーの中に見える、イーストウッドの作家性
ストーリーとしては王道から逸れることはありませんが、そのありふれた道筋の中でイーストウッド節が炸裂しているのが今回の見どころで、長年のキャリアを積み上げてきた彼にしか作れない至極のエンターテイメントとなっています。運び屋の仕事、楽しそうだなあ。
▼こちらも老人(デニーロ)が若者に希望を与える話。
▼「運び屋」の一つ前のイーストウッド作品。この年齢でこの多作っぷりは、アール・ストーンもびっくりでしょう。
ローズマリーの赤ちゃん《悪魔に憑かれた夫婦、オカルトホラーの名作》
「悪い噂はどこにでもあるわ」
公開年:1969
監督:ロマン・ポランスキー
上映時間:136分
駆け出しの役者ガイとその妻ローズマリーは、新居探しのためニューヨークのとあるアパートに訪れる。そこにはかつて悪評高い霊媒師が住んでいたという噂があったが、立地の良さや安さから二人はそのアパートで暮らし始める。ローズマリーは隣のカスタベット夫婦の部屋の居候テリーと会うが、その後テリーは7階から転落死する。そこから始まったカスタベット夫妻の一線を超えた親切心に、ローズマリは不安を感じ始める。
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ミア・ファロー演じるローズマリーがとても可愛らしく、ポランスキーの趣味かな?と疑ってしまうのは置いておいて、その可愛らしい姿が、中盤で痩せこけた骸骨のようになってしまうのは見ていて辛かったです。あれは実際に痩せていると思うので、過酷な役作りを想像させられました。
話はオカルトホラーといった感じで、新婚生活や妊娠の不安や恐怖を描いた不気味な作品に仕上がっています。特に中盤の悪夢のシーンは恐ろしい中にも美しさがあり、映像技術として今見ても革新的に感じます。
笑ったのは、カスタベット夫妻の登場シーン、あれ、、林家ペーパーじゃ、、あの登場からは予想もつかない恐ろしい展開になって行くのですが、信用できない隣人ということを匂わせるためのあの衣装だったのでしょう。
今見るとストーリーにそこまで目新しさを感じないのは、現代でも同じテーマを扱っている作品が多いからかもしれません。最近の映画だと「ヘレディタリー 継承」にかなり近い印象を受けました。
しかし今見ても普通に怖い作品であることは間違い無く、幼さと不気味さを感じさせるサントラも非常に素晴らしかったです。
Rosemary's Baby (1968) - Trailer
▼ロマン・ポランスキー監督の2012年の作品の感想です。
▼この後、現実でポランスキーの妻、シャロンテートが殺害される事件が起こりました。タランティーノ監督がその事件を描いた作品の感想です。
▼ローズマリーの赤ちゃん最新版といった感じの、アリ・アスター監督「ヘレディタリー 継承」。めちゃくちゃ怖いので鑑賞注意。